大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成2年(行ツ)168号 判決 1991年3月19日

大阪市浪速区元町一丁目一一番一〇号

上告人

株式会社 アスク研究所

右代表者代表取締役

國藤光弘

右訴訟代理人弁護士

曽根信一

神毅

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 植松敏

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行ケ)第一一三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年六月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

"

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人曽根信一、同神毅の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄)

(平成二年(行ツ)第一六八号 上告人 株式会社アスク研究所)

上告代理人曽根信一、同神毅の上告理由

第一点 原判決は、上告人の審決取消事由第一点に対して、まず、第二引用例には、「回転縦軸を複数本並べた掘削機において、混合手段として撹拌翼を用いてその撹拌翼の隣り合うものの回転軌跡同士を平面視において一部重複させるようにする技術」が開示されていることは当事者間に争いがないとし、スクリユー部は、掘削土砂の上方への移送の役目をし、撹拌翼部と撹拌混合翼とで上方に移送された掘削土砂と液との混合の役目をするものであり、全体としてみれば「スクリュー部」と「撹拌翼部と撹拌混合翼」との共同作用によって上下方向の均一な撹拌を行うものではあるが、「スクリュー部」と「撹拌翼部と撹拌混合翼」とは機能上はそれぞれ別の作用をしているものと認識されていることが認められると判示した後、したがって、第二引用例記載の「撹拌翼部と撹拌混合翼」においては、「スクリュー部」がなくても、それだけで掘削土砂と液との撹拌混合を行うものであるから、第二引用例記載の「混合手段として撹拌翼を用いてその撹拌翼の隣り合うものの回転軌跡同士を平面視において一部重複させる」構成は、掘削土砂と液との撹拌混合手段として独立して把握することのできる技術であることは明らかであると結び、よって、第一引用例記載の発明の掘削機において撹拌混合の機能を果すスクリュー部に代えて、同様のタイプの第二引用例記載の発明の掘削機の撹拌混合手段である「混合手段として撹拌翼を用いてその撹拌翼の隣り合うものの回転軌跡同士を平面視において一部重複させる」構成を採用し、本願発明の構成とすることは、当業技術者が容易に想到できることであると認められると判示して、上告人の審決の認定判断の誤り第一点の主張を退けた。

しかし、原判決の右判断は、以下述べるとおり判示の内容に矛盾があって著しく合理性を欠き、審理不尽、理由不備の違法がある。

原判決は、上告人の主張を排斥する理由の大前提として第一引用例記載の掘削機のスクリュー部を混合手段と認定した。この認定に至る原判決の理由付けには明らかな矛盾があり、論旨は分裂している。第一引用例記載の発明は、多軸掘削機による掘削方法に関するものであって、その明細書の実施例に記載されている三軸掘削機のスクリュー部は、その機能の主眼は掘削手段であり、スクリュー部が土砂を上方に押し上げることを目的とし、掘削ビットとあいまって地盤を掘削する作用を果すものである。このことは土木業界における常識であって原判決においても、その理由中の各所において、第一引用例記載の掘削機のスクリュー部と異なるところのない第二引用例記載の掘削軸のスクリュー部については、「スクリュー部は、掘削土砂の上方への移送の役目をし、撹拌翼部と撹拌混合翼とで上方に移送された掘削土砂と液との撹拌混合の役目をするものであり、」「スクリュー部と撹拌翼部と撹拌混合翼とは機能上はそれぞれ別の作用をしている」ことを判示している(原判決四一頁・四二頁・五五頁)。

すなわち、原判決は、第二引用例記載の発明のスクリュー部については、撹拌翼とは機能を異にし、掘削土砂の上方への移送の役目をするものであって、ビットとあいまって地盤を掘削する掘削手段であることを明らかにしているのである。したがって、原判決は、第一引用例のスクリュー部についてはこれを混合手段と認定し、第二引用例のスクリュー部についてはこれを掘削手段とし、混合機能を有しないと認定しているわけで、何等異るところのないスクリュー部について、一方は混合手段、他方は掘削手段とする全く相反する認定を行っている。これは明らかな原判決の矛盾である。ただ、スクリュー部も上下への反復操作を行えば若干の撹拌効果は得られると思われるが、このような効果は、もともと撹拌機能を有せず、また、その作用効果を最初から期待していない掘削ビットあるいは単純なシャフトであっても同様であって、このような効果をもってスクリュー部に撹拌機能があるとする議論は、引用例の記載の解釈から離れるものである。

要するに、スクリュー部は本来の用法にしたがって使用した場合には撹拌効果は得られないのである。第一引用例の発明の詳細な説明欄においてもスクリュー部が撹拌の作用効果を有する記載はない。なお、その説明欄四頁末段以下に、「掘削軸の先端のビットにて地盤に掘削丸孔を掘削する。この場合ビットからベントナイトやセメントミルクとアスファルト乳液との混合液などを噴出して掘削を容易にするものであるが、掘削された土砂の大部分はベントナイトやセメントミルクやアスファルト乳液とセメントミルクの混合液と均一に混練一という説明部分があるが、この混練はビットの作用による効果であることは一読して明らかであり、その他、明細書のどこにも土砂の混練がスクリュー部によって行われる趣旨の記載は全く見当らない。また、七頁上段には、「掘削軸を上下動かしながら抜いて土砂と固結用流体液との完全混合体を造成する」という説明部分があり、これらを考え合せると、この混練は右に述べたビットの作用効果もしくは前記のような反復操作による副次的な効果としての混合を意味することは明らかである。上告人が原審において、審決認定の第一引用例記載のスクリュー部を混合手段として認めたのも右の趣旨における混合の効果を考えていたからに外ならない。ところが、原判決は、前記のとおり第二引用例記載の掘削機のスクリュー部については、詳細にこれを掘削手段とし、撹拌混合の機能はないと判示しておきながら、他方第一引用例記載の掘削機のスクリュー部については、右に述べたところを全く吟味することなく漫然と、「第一引用例記載の発明におけるスクリュー部は混合手段である旨の本件審決の認定判断も原告が自ら認めるところである。」という判示だけにとどめ、右に述べた矛盾を全く放置して審決の認定を安易に援用し、これを混合手段と認定判断したものであって、明らかな審理不尽である。

要するに、第一引用例記載の掘削機のスクリュー部は、軸の回転に伴って土砂を上方に送り出す作用を果すことが主眼であって、撹拌混合作用は本来持っていないのであるから、原判決判示のように、直ちに、第一引用例記載の掘削機の客観的に明らかな掘削手段であるスクリュー部に代えて、第二引用例記載の発明の掘削機の撹拌混合手段である「混合手段として撹拌翼を用いてその撹拌翼の隣り合うものの回転軌跡同士を平面視において一部重複させる」構成を採用し、本願発明の構成とすることは、そのような変更や構成を思いつかせる契機ないし手掛りが引用例には全く存在しないといえるので、これらを推考することは当業技術者としても容易でないことは自明である。これと結論を異にする原判決は、審理不尽であってなお特段の理由付けのないかぎりその判断は明らかに矛盾し、著しく合理性を欠落し理由不備というべきである。

第二点 上告人は、審決取消事由第二点の主張においては、本願発明の掘削土砂と液との混合物を地上に排出することがなく、排出土の処分が必要でないという作用効果は、あくまでも、本願発明のスクリュー部を設けていないという基本的な特徴からもたらされるものであって、第二引用例に記載された撹拌翼部や撹拌混合翼の属性に由来するものではないこと、そして、第二引用例記載の撹拌翼部や撹拌混合翼は、スクリュー部との共同作用によって掘削土砂の撹拌混合を行うものであり、第一引用例記載の発明と第二引用例記載の発明の掘削機は、共に、本願発明が解決しようとしている技術課題、すなわちスクリュー部があるために掘削土砂と液との混合物の一部が地上に排出されてその処分を必要とする問題点を抱えているものであって、第一引用例と第二引用例に記載された技術内容から本願発明の目的である前記作用効果はとうてい予期できるものではないことを論証した。

これに対して、原判決が上告人の右主張を退けた理由の要点は、第二引用例記載の発明の掘削機は、その「スクリュー部」と「撹拌翼部と撹拌混合翼」との共同作用によって上下方向の均一な撹拌を行うものではあるが、「スクリュー部」と「撹拌翼部と撹拌混合翼」とは機能上はそれぞれ別の作用をしているものと認められるから、スクリュー部が地表から地中にかけて挿入された状態で撹拌混合すれば、掘削土砂と液との混合物が一部地上に排出され、その排出土の処分が必要となることは自明であり、一方、第一引用例においても、掘削土砂が地上に排出されない作用効果を有する従前技術が記載されていたものであるから、これらを合せ考えれば、当業技術者は、第一引用例及び第二引用例の記載から、スクリュー部があるため掘削土砂と固結用液との混合物の一部が地上に排出されてその処分を必要とすることを問題点として認識しこれを解決するという技術課題、すなわち本願発明の目的を容易に予測できたものと認められる(原判決五五頁以下)というものである。しかし、本願発明の目的とするところは、くりかえし述べたとおり、上下方向の全長の各部を同時に混合撹拌できるうえに、液と掘削土砂との混合撹拌を上下全長の各部において同時にできるという優れた作用と機能を有し、しかも、スクリュー部を設けていないために混合物を地上に排出することがなく排土の処分が必要でないことにあるのであって、この顕著な作用効果に本願発明の進歩性が認められるのである。原判決が第二引用例においてスクリュー部だけの機能を単独に抽出して排土の効果を自明とした判断は、著しく説明不足であって論理に飛躍がありとうてい理解できない。第二引用例記載の掘削機は、「スクリュー部」と「撹拌翼部と撹拌混合翼」の各構成要件の結合から成り立っているのであり、これらを結合から切り離して「スクリュー部」の機能だけを抽出して着目し、排土の作用効果を自明とすることにより本願発明の目的は第二引用例に記載された技術内容から予期できると判断した原判決は理由不備の違法を免れない。

以上

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